ショコラ SideStory
……康子さんは面倒臭い女だ。
甘えたいのに弱音は吐きたく無い。
強気で問いただしたところで、突っぱねられるだけ。
彼女は仕事が好きだし、プライドもある。
おそらく、俺がケーキ作りに持っているのと同じくらいのプライドが。
夫とはいえ、内容も分からない人間が訳知り顔で口を出したって彼女の反発を買うだけだ。
若い頃はそれがわからずに喧嘩したこともあったけれど、一度離れて戻った今は何となく分かる。
彼女は自分の気持ちを落ち着けたくてここに来るんだ。
詩子や会社の部下に醜態を見せないために。
「……おいしい」
口元が少し緩んだ。
俺がスイーツ作りを止められないと思うのもこの瞬間だ。
頑なな表情が変わる一瞬。それを見るのが堪らなく好きだと思う。
「夏になったらさっぱりしたものだしたいんだけど。康子さんどんなのが好き?」
「ゼリーとかってこと?」
「そう。食材として面白いのはスイカかなとか思ってる」
「スイカのゼリー? あんまりおいしくなさそうね。ああでも、最近トマトのゼリーとかも聞くわね」
「甘みをつけて炭酸で割ってみるとかもありかな。ドリンクとして」
「おいしいのかしら」
「さあ。まずいかも知れないけど、やってみなきゃわからんさ。試行錯誤することは悪いことじゃない」