ショコラ SideStory
「今日は疲れたぁ」
「そっか」
「レイアウト変更の原稿を古いので出しちゃってて、一部刷り上がってるのに全部直さなきゃいけないくなってねぇ。どうも私がチェックの時に入れ間違えちゃたみたいで」
「へぇ」
「自分のせいだから頭下げるのはいいんだけど。……なんて言うの。こんなに沢山の人に迷惑かけて、……何年も仕事してんのにって思ったら、もう自分が情けないでしょ」
ポツポツと事情を語りだす彼女の言葉に、自らの意見は挟まない。
ただ聞く。彼女が最後の結論を導くまで。
「明日、社長に怒られるのは覚悟しないとね」
「怒られるって体験も、この歳になると貴重じゃないか」
「そうね。たまにはいいのかしら」
顔を見合わせてくすりと笑う。
彼女は最後の一欠片を口の中に放り込んだ。
「……今はどんな気分?」
「ちょっと復活してきたわ。甘いものはやっぱりいいわね」
「俺は、ケーキで機嫌直してくれる康子さんがやっぱ一番好きだな」
きょとん、と俺を見つめた康子さんの顔は、徐々に満面の笑みへと変わっていく。
「あなたのケーキは最高だから」
「康子さんを喜ばせたいからね?」
じっと見ている俺から、恥ずかしそうに視線をずらすと、康子さんは一気に残りのコーヒーを飲み干す。