ショコラ SideStory


 そんなある日、事件は起こった。


「どういうことなんですか!」


一階まで響くような声に、一瞬店内がざわざわする。

その後も聞き取れないけど、母親らしい人物の怒鳴り声と、子供の泣き声。
そして階段を駆け下りていくような音。

何かあったのは間違いなさそうだ。


「……いいのか?」


マサが、あごで私を促す。

いや、気にはなってるけどさ、こういう時空気も読まずに入っていっていいものか分からない。それに、こっちだって接客中だし。


「ご注文お伺いします」

「ケーキセット、モンブランと紅茶でね。……ねぇ詩子ちゃん、上でなんかあったの?」

「さあ、あたしにはわかりかねます」


常連客で、あたしと宗司さんの関係を知っている人は、心配そうに言ってくるけど。

いやいや、今起こったばかりのこと分かるわけないじゃない? 
あたしはエスパーじゃないわよ?


「モンブランと紅茶のセットです」


厨房に注文を告げに入ると、親父も神妙な顔をしていた。


「詩子、上いってやれ」

「え。でも」

「様子見てこい。俺も気になる。店内は俺とマサに任せていいから」

「う、うん」


そう言われて、普段は閉めっぱなしにしている内階段から二階へ登る。鍵を回してこっそり覗いてみても、丁度ホワイトボートが目の前にあってここからじゃ見えない。
でも話し声的には、残った生徒さんの相手をしているようだ。

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