ショコラ SideStory
大丈夫そうかな。
そう思って戻ろうかと思ったけど、彼の声が妙に震えているような気がして、あたしはその場から動けなくなった。
しばらくすると、終わりのような言葉が聞こえてきた。
「じゃあ、今日はここまで。気をつけて帰るんだよ。今日はゴメンな」
「先生、元気だしてねー」
「俺、先生の授業好きだよ」
「はは、ありがとう」
最後の一人が階段を降りる音が聞こえなくなるまで、宗司さんは入り口で見送っていたのだろう。
バタンと扉が閉まる音がして、はあ、と溜息が一つ。
一息で空気が重たくなったようなその息遣いを聞いて、あたしは居ても立ってもいられなくなってきた。
声をかけようか迷っていると、予想外に宗司さんが話しかけてくる。
「……詩子さんいるんでしょ」
「知ってたの?」
「ドア開く音聞こえたからね」
あたしが恐る恐る教室に入ると、宗司さんはバツが悪そうに笑った。
「聞こえちゃった?」
「そりゃあもうバッチリ」
「しばらく噂になるかなぁ」
「……何があったの?」
あたしの問いかけには返事をせず、宗司さんは生徒さん用の椅子を二つ持ってきてあたしに一つ差し出す。
受け取って座ると、彼も隣に腰掛けた。