ショコラ SideStory
「うん。次の生徒が来るから復活する」
「そうね。あたしも店に戻るわ」
「詩子さんありがとね」
「あたしは難しいこと分かんないけど。宗司さんが、子供の目線を大人の理解力で分析してることはなんとなくわかったわ」
そう。周りの大人と宗司さんの違うところはきっとそれだ。
彼は目線を下げるんだ。理解したい相手の高さまで。
だからこそあたしも、多分子供たちも、彼ならばわかってくれるって安心できる。
「宗司さんに進学塾は向かなさそうだけど、あなたに教わる子は幸せだと思うわ」
「……そういうこと言われると」
内階段の扉を開けたところでそんなことを言ったら、宗司さんが追いかけてきて。
小さな踊り場であたしを抱きしめる。
「離したくなくなる」
「……宗司さん」
最近時々強引な時もあって、そういう時はときめくなぁなんて思うんだけど。
決まった邪魔が入るのもこれまたお約束みたいなもんだ。
「こらぁ、宗司! 俺はそういうことをさせるために詩子を様子見にやったんじゃないぞ!」
うるさいわよ、親父。
店にまで筒抜けになるじゃないの。
そして店での印象を悪くするわけにはいかないので、今は大声で反論できない。
「ごめん、詩子さん」
あたしを離して困った顔をする彼の手をぎゅっと握りしめる。
「すぐ邪魔が入るわよね」
笑って、あたしは階段を降りた。
まだギャーギャー騒いでる親父の脇を通りすぎ、店に出てお得意の営業スマイル。
「いらっしゃいませ」
親父に何言われたって、ビビるもんか。
あたしは宗司さんのこと助けたり支えたりしてあげたいの。
だって、彼は今自分の足で一歩を踏み出そうとしているところだもの。