ショコラ SideStory



 翌日は夏が最後の悪あがきをしているような熱気だった。
外の気温は三十五度を超えている。

暑いのは苦手だ。
何よりもクリームがうまく決まらないのが癪に障る。

そう言ったら「分かる分かる」と返してくれるマスターのことを心から敬愛する。


「あたしは分かんない。こんな冷房ガンガンの厨房に入り浸っててよくもまあ、暑いだ何だ言えるわね、二人共」


 呆れたように鼻を鳴らす詩子のことはきっと一生好きにはならない。
友達としてとか同僚としてならまあ嫌いじゃないが、女として見たことは一度も無いかもしれない。
学生時代もそうだったが、なぜあいつにあんなに男どもが群がってくるのか、本気で理解できない。


「学生も夏は大変だよなぁ。冷房とか入んないんだろうしなー」


ぽつりと言うと詩子がニヤニヤしながら近づいてきた。


「なぁに? 和美ちゃんの事?」

「うるさいな。詩子に言ったわけじゃない」

「まあまあ、そう言わず。でもさ、教育学部生だから就職活動とか無いんでしょ?」

「そうじゃないか? 来年採用試験を受けるとか言ってたと思うけど」

「実は和美ちゃんって宗司さんの後輩になるらしいのよねぇ。時期が被ってたことは無いらしいけど」


はたと気づく。
そうか。そういや松川さんは塾講師をやるくらいだから教育学部を出ているのか。


< 232 / 432 >

この作品をシェア

pagetop