ショコラ SideStory
松川さんはしきりに頭を下げ、ちょうど立ち上がるところだった。
俺に気付き、にこやかに顔を綻ばせて手を振る。
一緒に居た男は彼の肩をポンと叩くと、伝票を受け取って先に出てきた。
「俺が出しますよ、立海(たつみ)さん」
「いいよ。先輩風吹かさせろや」
相手の男は俺にも会釈をするとひらひらと手を振って出て行った。
「こんにちは、マサくん」
「……こんにちは」
松川さんのことはよく知っているけれど、実はふたりきりで話したことはほとんどない。
いつも詩子かマスターが間に入っていて、聞いた話ではとにかくうだつが上がらない印象だが、こうして見ていると別にそんなに頼りないようには見えないけれど。
「松川さん、さっきの方はいいんですか?」
「うん。もう話終わったところで。マサくんはこれからデートかなんか?」
「いえ。俺も今は一人で。……もし時間あるなら、松川さんコーヒーに付き合ってくれませんか? 俺、ここのケーキを食べてみたくて」
一人でここに入るのも気が引けるし、せっかく来たからケーキの味見もしてみたい。
確かこの人甘いモノは好きだったはずだし。
「ああ、いいよ。敵情視察みたいなもん?」
「そんなトコです」
さっきの人とコーヒーは飲んだであろうと思われるのに、松川さんはウキウキした顔でケーキセットを頼んだ。
俺はいちごムースのケーキ。松川さんはモンブランだ。