ショコラ SideStory
「詩子さんにプロポーズされて、嬉しくなかったわけじゃないから」
目の下にはクマが出来てる。
昨日よりひどい顔になってるよ、宗司さん。
「俺、驚きすぎて。昨日は何もいえなくてごめん。でも嬉しかった。詩子さんが俺のことを心配してくれて、……守ろうと思ってくれてるんだって思って。でもそれで、情けなくもなった」
「どうしてよ」
「だって、本当は俺から言わなきゃいけない言葉だ。きちんと塾を軌道に乗せて、迎えに行くって、マスターにも宣言していたのに」
今どき、男からプロポーズしなきゃならないなんて誰が決めたのよ。
頭固いな。そういうところは親父にそっくりだわ。
「帰ってから凄く考えたよ。どう頑張ったって一週間で塾は軌道に乗らない。マスターに嘘つくことになるって。そんな風に真剣に考えているのに」
宗司さんが勢いづいてあたしの手をにぎる。
でも彼の手はクリームでベタベタなわけで、あたしまでクリーム星人の仲間入りになってしまう。
「それでも顔が笑っちゃうんだ。稲垣さんのこと思い出して落ち込んでも、詩子さんのプロポーズが嬉しすぎて笑ってしまう。詩子さんを思い出すだけで楽しい。……無くしたくないよ。マスターとの約束は大事だけど、詩子さんを失うほうが俺には大問題だ。嘘つきだってマスターに殺されたって、詩子さんを失うよりいい」
バカ。
殺されたら泣くわよ。
殺人者の娘とかにもなって最悪じゃん。
……でも、あたしも嬉しい。
こんなめちゃくちゃな状態で、先のことも何もうまくいきそうにないけど、今の宗司さんの言葉が嬉しくて笑っちゃう。