ショコラ SideStory
「康子さん、聞いてください」
「聞いてるわ。でも私を納得させるだけのものをあなたは提示してくれていないわよね」
母さんにぴしゃりと言われて、宗司さんはぐうの根も出ない。
改めて、母さんはやっぱり企業の中で生きてきた人なんだなと思う。
人情だけでは流されない。
確かに、あたしと宗司さんの収入では心もとないといわれれば、頷くしか無いけれど。
「だったら、あたしが他のところで働けばいい? 今の給料よりは稼げると思う」
「それはダメだぁっ」
後ろから潤んだ声をだす親父。
そうよね。あたしもアイシングをもっと極めたいの。せっかく目標が出来たのに、今は辞めたくないわ。
「そういうことじゃないわよ。もう一度生活するってことについて考えてみなさいって言ってるの。今までの説明だと、あまりにも具体的な未来像が見えてこないわってこと」
「具体的って?」
「信用たるかどうかは実績による訳。宗司くんが本気なのは疑っていないわ。だけど、あなたの仕事ぶりについては、私はまだ信用していない」
宗司さんの頭が一段下がる。
「結婚はおままごとじゃないのよ。現実問題お金って大事なの。生活できないと人間って荒んでいくものなの。勢いで結婚してもいいことなんてないわ」
だから。
それをあなたが言うのはどうなの。
付き合って早々にあたしが出来て、思いっきり勢いでできちゃった婚したのは、したり顔のあなたではないのですか!
あたしのイライラはピークに達した。
勢い良くテーブルに手を突くと、自分でも驚くほど大きな音が出た。
思わずみんな黙りこくって、あたしに注目する。