ショコラ SideStory

「ただ、急に注文が入ってもう一つだけケーキ作って帰らなきゃならないんだ」

「こんな時間から?」

「深夜の打ち上げだそうだ。知り合いに頼まれたから断れなかった。届けてから帰るから、康子さん先に家に帰っててよ。そうだ。ポトフが食べたい。前につくってくれたやつ」

「えー。今から料理なんて面倒だわ」

「でもあれが食いたいな。美味かった」

「……もう、仕方ないわね。わかったわ」


まんざらでもない声を出して、母さんは店から出て行った。

両親の気恥ずかしい会話を目の当たりにしたあたしの顔は真っ赤。
宗司さんが、穏やかに笑いながら店内の方に目を向ける。


「いいご両親だね、詩子さん」

「……いつまでもエロボケしてるけどね」


何がチューだよ。いい年して。
まあ、喧嘩されてるよりいいけどさ。


「ごほん」


口で咳払いの音を出し、親父がしかめっ面をして戻ってくる。


「……いつもはちゅーするのね、店内で」

「うるさい」


冷やかしてみるも、案外動じないわね。つまんない。


「……聞こえてたろ?」

「うん」


母さんの本音。
あたしのこと、心配してくれてるのは間違いないってこと。


「もう一度お家に話しに伺ってもいいですか?」


しっかりした声音で、宗司さんが言う。


「納得させられなきゃ無駄足だぞ? そして、彼女は俺より現実的だ。夢だけ追っているようにしか見えなきゃ反対し続けるだろう」

「そうしたらまた練りなおして行きます。何度でも」


とても静かに穏やかに、宗司さんが告げる。
それがとても頼もしく思えて。

あたしはやっぱり、彼が好きだなって思う。

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