ショコラ SideStory
思わず立ち上がろうとして、宗司さんに制される。
「我慢して、詩子さん」
「でも」
「ちゃんと最後まで聞こう」
こういう時の宗司さんには逆らえない雰囲気がある。
あたしは黙って、再び身を低くした。
「それにね、詩子はなんだかんだとあなたに嫌われるのが一番堪えるのよ。そうでしょう? あの子の傍にずっといてあげたのはあなただわ。どれだけ愛情があったって、放っておいたのは本当のことよ。だから憎まれ役を買って出るのは私。罪滅ぼしみたいなもんよ」
ギシ、と音がした。カウンターに体重をかけた時によく鳴る音。
「詩子を一番心配してるくせに」
「当たり前でしょ、娘だもの。でもそれを詩子が知る必要なんて無いわ。親の愛情なんてその程度でいいのよ」
「よく言うよ、一番愛されたいくせに、意地っ張りだな」
……親父は凄い。
本当だ。クリスマスケーキは母さんそのものだ。
味わい方次第で、全然印象が変わる。
母さんはちゃんと母さんなりのやり方で、あたしを愛してくれてる。
立ち上がって店に出ようとしたあたしをとどめたのは、次に続く母さんの言葉だった。
「それにしても、なんで今日はそんなによそよそしいわけ?」
「え? あ、いやぁ」
どもる親父。あたしは立ち止まって宗司さんと顔を見合わせた。
「いつもならキスの一つもしてくれるのに。どうしたのよ。こっちいらっしゃいよ」
「いや、康子さん。それはその」
「なに? 何か隠し事?」
「してないよ、隠し事なんて」
あら。痴話喧嘩に発展しちゃうの?