ショコラ SideStory

「……ってわけで、いきなり言われても何が何だかって感じでね?」

「そうだね。急に言われても……って感じはするけど」


するけど……なに?

いつもの宗司さんじゃないみたい。
笑いもしないし困ってもいない。いつものヘタレなあなたはどこ行ったのよ。

泣いて止められるのを期待していたわけじゃないけど、この態度も拍子抜けだ。


「……詩子さんのキャリアアップにはなる話だ」


あたしは、カウンターに乗せていたこぶしをぎゅっと握る。嬉しさと悲しさがないまぜになったような気持ちが、お腹にどっかりと陣取った。


「そうね。あたしも技術習得には興味あるのよ。……でも、結婚の話もあるし」

「結婚は焦らなくても出来るよ。……でも、この話は今だけだよね」


あっさりと言われて、お腹にあった複雑な気持ちが小爆発を起こす。

確かに今だけだけど、別に香坂さんの推薦してくれたお店に行かなきゃいけないってこともない。
通える範囲で修行させてもらえる店を探したっていいわけじゃない。

そうよ、何もわざわざ宗司さんと離れてまでしなくても……。


「でも、結婚の話だって……ようやくみんなが納得してくれたのに」

「一度納得してくれたんだから、少しくらい伸びても問題ないよ。実家には俺から言っておくし」

「でもあたしたち、離れ離れになるのよ?」


おかしい。
あたしはこの話に、魅力を感じていたはずだったのに。

目の前の冷静な宗司さんを見ていたら、すごく不安になってきた。

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