ショコラ SideStory
片付けしてないとか、戸締りしてないとか、カバン忘れたとか色々思ったけれど。
今更戻れるほど冷静にはなれてはいなくて、あたしは鼻をすすりながら夜空を見上げた。
都会の電飾で星はほとんど見えないけれど、空にはぽっかりとお月さまがある。
温かみのある黄色に少し体の力が抜けた。深呼吸を何度かして、目尻に残った涙をふき取った。
これからどうしよう。
家にも帰れず、かといって他に行くところもない。
宗司さんとの話し合いだって、これで終わりにできるわけでもないのに。
……バカみたいだなぁ、あたし。
携帯も忘れてきたみたいだ。時間もよくわからない。
どれくらい経っただろう。
しばらくプラプラと歩いていたら、慌てているような足音が聞こえてきた。
「詩子」
名前を呼ばれて、あたしは宗司さんの姿を期待した。だけど振り向いたら、そこにいたのは親父だった。
口から吐き出される息は、白く広がって消えていく。肩で息をしているところを見ると、ずっと走っていたのだろう。
「……宗司から連絡あって探しに来た。宗司、心配してるぞ」
「だったらなんで親父が来たの?」
「先に詩子に言っておかなきゃならないことがあったからな。宗司には店に戻らせた」
言っておきゃなきゃいけないこと?
黙ったまま視線を上げて続きを促したら、親父は苦笑してあたしの隣を歩き出した。
「……でかくなったなぁ」
「なによ、今更」
身長なんて、十五歳くらいから伸びてない。今更感慨深く言われても困るんだけど。