ショコラ SideStory
「おう、ありがとな」
ようやく顔をあげて、隆二くんが今詰めたばかりの袋を差し出す。
「昼飯用に持っていけ。チーズマフィンと野菜サンドだ」
「わ、ありがとう。あたし、これ好きなんだ」
「お前は甘いものはあんまり喜ばんからな」
残念そうに、隆二くんが笑う……と思ったら、途端に涙目になっていく。
「あんまりこっち見るな。……格好つけられてるうちにさっさと行けよ」
「すでに格好悪いよ、父さん」
くすくす笑いながら、詩子は笑顔で私たちに手を振る。
「じゃあ、行ってきます」
そろって、店舗の方に出ると、宗司くんが待ち構えていた。
「俺、駅まで送っていきます」
「宗司くん頼むわね」
駅まで見送りに行こうかと思っていたけれど、宗司くんが行くなら遠慮しよう。
二十四の娘は、親より恋人に見送られた方が嬉しいだろう。
詩子は私と隆二くんを見比べると、なぜか隆二くんの方ににやりと笑いかける。
「母さんをよろしくね。父さん」
「おお。分かってる」
すでに半泣きになっている人に言うことじゃないと思うんだけど。
この場合、頼られるのは私の方じゃない?
「何よ。私が頼りないとでも?」
「母さんは今は泣かないからよ。父さんは今泣いてるからあたしがいなくなったら泣かないわ」
いつの間にか、見透かすようなことを言い出した娘に驚く。
確かに、私は意地っ張りだから、本人の前じゃ泣かないけどね。
「平気よ。どうせ一年そこそこで帰ってくるんでしょう。頑張っていってらっしゃい」
「うん。行ってきます」