ショコラ SideStory
雪音さんは考え込むように口元に手を当て、すっと息を吸った。
なんとなく醸し出す空気まで変わった。朗らかさが抜けた瞳は、どこか鋭さがある職人の目だ。しばらく沈黙してざっと目を通すと、了解、と小さくつぶやきノートを閉じる。
「大丈夫。できるようになるわよ。細かいのだとこのくらいまで」
今度は雪音さんが見本サンプル帳を見せてくれた。あたしが理想としていた、細かな細工を使ったものもそこにはある。
「じゃあ私はあなたにこれを作る技術を伝授する。その代わりあなたは私の留守中、この店を守ること。利害は一致してるよね、いい?」
「はい。もちろんです」
「じゃあ、この子が生まれるまでにここまでの技術を仕込みたいから、スパルタでやるけど、頑張れる?」
「はい!」
なんか、通じ合った。
あたしこの人、かなり好きかも。
あっちもそう思ってくれたのか、不意に雪音さんは笑い、掌を差し出した。
「よかった。うまくやれそうだわ、私たち」
「あたしも安心しました」
がっちりと握手。
握りしめた手に当たった、固いもの。おそらくこれはマメ。スイーツづくりは案外力仕事で、筋肉もつくし掌のマメはよくできる。
これは、職人の手だ。
宗司さん。
あたしの新しいオーナーは結構やり手そうだし、話の分かるひとみたいだよ。