序章
足が痛い。
それでも走る。

「いやだ……。こないで!!!」

ペタペタペタ。 
乾いた不気味な音が、広く冷たい廊下に響き渡る。
 
カシャン

ポケットから携帯電話が落ちる。
そして、ひとりでに電源がつき、狭い範囲をほんのり明るくする。
画面には、電話番号が表示されている。
着信。
トゥルルル…トゥルルル…

通話。

「助けて!!お願い!!たすっ…!」
「あ、紗枝?麻衣だけど」

電話の相手は、何がおきたか知らない。
だがそこには、たしかに。
赤より朱色に近く、錆びた鉄のような臭いの液体が、広がりつつあった。

「紗枝?どうしたの?」

そんな声と、

「『麻衣』……ふふ……」

微笑する声だけが響いていた。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop