【完】水筒
水筒
 じりじりとグラウンドに日が差す。今日は真夏日だ。


 私は現在、三年生であるため早めに始まった体育祭の練習を、木陰で見学しているところ。


 昨日は体調を崩してしまったため、今日参加するとまたぶり返すかも知れないという先生の考慮の上で。


 いくら体育科があるくらいスポーツに特化した学校だからといって、こんな時期から二時間も練習を入れるのは、なかなかに酷いと思う。



 みんな、リレーの練習で必死だなぁ…なんて事を、薄ら靄のかかった頭で考えていると、後ろからふと声が掛かる。



「だいじょーぶ?」



 二本の水筒の肩紐を手で握り、爽やかな笑顔を私に向ける幼馴染。


 真っ黒に焼けた肌は、生まれつきそこそこに白い私とは対照的だ。



「そろそろ水筒替えてよねー…どっちがどっちか分からなくなるじゃない」


「そっちが被らせたんだろ。先に買ったの俺だっての」



 リレーの練習はどうしたのか。私の隣に腰を下ろし、突然吹いた風に涼む。


 彼の短髪とまたも正反対の私の長い髪が、靡いてさらりと音を立てた。



 もう随分伸ばしてきたけれど、切ろうか少し迷う。


 一束ごつごつした指ですくって、私に問う。



「まさか切ろうなんて思ってる?」



 筒抜けの思考が、少し悔しい。



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