不思議電波塔



 由貴の横で、四季は静かに言った。

「僕は由貴の物語を読んで好きだと思ったとしても、その物語を僕のものにしようとは思わない。僕がもし物語を書くとしたら、僕は僕の思っていることをひとつひとつ確かめながら作りあげて行くと思う。それが創作をする者にとって、最も大事なものだと思う。由貴の物語は、時間をかけてきちんと作られた、由貴の部屋のようなものだよ。そこに客人を招くことがあったとしても、その客人が外から毒物や得体の知れないものを持ち込んだり、強盗のような振る舞いをすれば、由貴が傷つくのは当たり前だ。それが由貴本人もそういうことを喜んでやっているように言われるなら、なおさら。ピアノでも、その作曲者の意向をまるで無視したでたらめな演奏をすれば、それはもうただの『でたらめ』であって、その作曲者とは無関係のものだよ。何でも一緒くたに混ぜくり返して、片付けや責任は由貴に取れなんて、こんな失礼きわまりない話もない。騒ぎたければ、自分で自分の部屋を作って騒げばいい話だ。由貴の部屋でわざわざ騒いで散らかす無神経さがわからない」

『やれやれ。いたく嫌われたものだね。そんな小さなことで目くじら立てるほど、君たちは狭量な人間なのか?』

 ユニスが毅然と返した。

「他人のものを侵害しておきながら、それを指摘されると『狭量』だと?人の心を傷つけて、略奪出来るものは略奪して利用したいだけなんでしょう?恥を知りなさい!」

 驚いたのはリュールの方だ。ユニスは普段物静かで滅多に怒ったりなどしない。

 が──ユニスのたどってきた道を考えると、その怒りは腑に落ちるような気がした。リュールがユニスの言葉を継ぐように晴に言った。

「小さなことを許していたら、この次はまたそれより少し大きなことを許せと言うわけだろう。それで歯止めがかからなくなる。これが一国を侵略して、その国の王が怒っても、お前は同じことを言えるのか?それが小さなことだと」



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