不思議電波塔



 塔に入ると正面に時計が見えた。円の形のフロア。

 内側が部屋。壁際が階段になっている。

 大理石の造り。床には赤い絨毯が敷かれ、音楽ホールのような雰囲気を醸し出していた。

 逆行のワルトシュタインが鳴り続けている。

「何処から行けばいいんだ?」

 階段は左右に伸びていた。

 1階の部屋の扉は開かず、由貴と涼、四季と忍で分かれることにした。

「俺と涼は右を行く。四季と忍は左から行って」

「わかった」

 由貴と涼は階段を登って行った。登ってみれば2階の部屋があるかと思ったのだが、部屋には出会わなかった。

「何階に来ているんだろう…。涼、大丈夫?」

「大丈夫。会長、先に行って。涼、足手まといになりたくない」

「でも」

 ふと、涼は少し上の階段の壁に、絵があるのを見た。

「会長、あの壁に絵がある」

 由貴と涼は絵のところまで行った。

 ピアノが1台描かれている。

「何だろう」

「近くにピアノの部屋があるのかな?」

 ワルトシュタインがゆっくりと短調の音を奏ではじめる。四季が言っていた、第2楽章に来ているようだ。

 絵の中のピアノが弾けたらいいのに。

 涼はピアノの絵にそっとふれてみた。

 すると──涼の身体が絵に吸い込まれた。

「涼!」

『会長…』

 絵の中の涼はピアノのそばに立ち、由貴に言った。

『ここ、ピアノの部屋になってる。四季くんが本当はこちらの階段を選ぶべきだったのかも』

「じゃあ…」

『後戻りはしない方がいいと思う。逆行のワルトシュタインと同じことになるから。階段は上へ続いてる。会長は上へ行って。涼、何とか出来ないか、考えてみる』

「──。わかった」

 由貴は涼の言葉に頷いた。絵の中の涼に触れたかったが、自分までその部屋に吸い込まれると、上の方へ行く道は絶たれてしまうような気がして、やめた。

 上からパラパラと粉が降ってくる。そういえば階段が崩れてくると言っていた。

 由貴は塔の上を目指して駆け出した。



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