不思議電波塔
「それは──僕は今聴いた」
四季はそれまでに起こった奇妙な出来事を回想しながら疑問を口にする。
「次元に歪みが生じるって…どういうこと?」
シェネアムーンが、先刻由貴の部屋を訪れた理由を説明する。
四季はそれで少しは理解したが情報が足りないように思えた。
「僕、さっきまで彼女といて──このこととは関係あるのかわからないんだけど、変なことに巻き込まれているみたいだった。突然気分が悪くなって、座り込んでしまって…『たすけて』って声が聴こえるって。──次元を超えてきたのは僕だけ?忍っていう子はいなかった?」
イレーネが驚き、聞いてきた。
「失礼。あなたはすでにご存知のようですが、私はイレーネ・スフィルウィング。あなたの彼女が『たすけて』という声を聴かれたのですか?私もシェネアムーンがこちらを訪れる少し前に、同じことがありました。その時ユニスがそばにいたので、声の波に呑み込まれずすんだのですが」
「呑み込まれる?」
「泥のうねりのように絡んでくる声です。息が出来なくなりそうでした。あなたはその時彼女のそばに?」
「はい。つらそうだったから『とりあえず座って』って言ったら、座ってくれて。忍の方が気分悪いのに僕の心配なんかするから、余計心配になって。しばらく座っていたら気分が良くなったみたいだったから良かったんだけど」
ユニスとイレーネは顔を見合わせる。
「同じだ…。重なってる。私が『彼女』で、ユニスが『あなた』と被る行動をしてる」
「でも──あなたの『彼女』はこちらには来ていないのです」
「そうか…」
シェネアムーンが穏やかに言った。
「本来こちらの世界とあちらの世界が同じように連鎖するということはありません。こちらの世界は由貴さんという書き手とその物語を読んでイメージを描いてくれた四季さんという描き手──それによって構成されています。そこに第3の力…時空を超えて同じ力で統一させてしまおうという傍若無人な力が働こうとしている。その力にとらわれると全てが『無』に帰してしまいます」