不思議電波塔
シェネアムーンの話を聞いて、四季は真面目に考えようとして…すぐにやめた。軽く聞いた時点で、頭が痛くなりそうな内容だ。
「理論はわからないけど、時間も思想も架空も現実も命も無機物も一緒くたにするってこと?」
「そうです」
「何のために?そんな理論で回っている世界なら、人間に衣服なんて要らなくない?命が生まれてくる喜びもないと思う。生まれる瞬間の喜びは束の間で、一切を『無』に帰したい方向性で歩かせるだけなら。『自然に還る』ことを自然が教えてくれるだけならいいけど、そんな夢も希望もない理論を振りかざして人を支配するものじゃない。そんなもの、使い方を間違えれば理論を纏った暴力だ」
「はい。それでも、その理論を振りかざしてでも、人を自分の言いなりにしたい人間の不安や欲望はそれだけ渦巻いているということです」
「行き過ぎているよ。それで由貴個人の小説が、何のためにそういったものに狙われるの」
「綾川由貴さんにお会いしましたが、理由はすぐにわかりました。人は大抵の場合、自分より優れている部分が多い人間や、面倒なことを押しつけても引き受けてこなしてくれる人間、利用しやすい人間に、嫉妬したり、馬鹿にしたり、自分たちと同じものになれと足を引っ張ったりするものです。それなりに人間の出来た人でもなければ共感も持たれないでしょう。由貴さんは穏やかそうな人ですから、それが表面上は激化することも少ないのでしょうが、そういった気持ちを持っている人間も少なくはないということです」