地球の三角、宇宙の四角。
「なんでしょうか?」

幸村さんは大きな声ではないが、静かなフロア中に通る声で言った。

「なんだよこれ」

と、5,6枚の書類をペラペラと幸村さんの目の前であおぐ課長。

これから起ころうとしている私服は浪人生のようなさえない男に美人が叱られるであろう展開に、私の瞳孔が開いた。

蜘蛛の巣に引っかかったアゲハチョウを見殺しにする観察者のような目で、つばを飲んだ。

遠くの席に座る“さおりん”とも目があった。さおりんは、なんだかうれしそうなので、二回頷くと、さおりんは一回大きく頷いた。

「何か問題でも?」

幸村さんの言葉で課長のペラペラと書類を扇ぐ仕草が止まる。

「数字がめちゃくちゃなんだよ、オマエなめてんのか?」

「すいません」

表情を変えず、頭も下げずに幸村さんは言った。

「何コレ? こんな数字どっから引っ張ってきた? 俺の渡した書類ちゃんとみたのか?」

「はい、前回と前々回の同じような案件の数字は、参考にならないと思いました」

「はあ?」

「課長からいただいた書類は、10年以上も前のものです」

おいおい! いいぞ! やれやれ! と私は応援した。この隙に帰れたらベストなんだが……。

「ああ、そうだ。それで?」

「そんな数字をそのまま使っていたのでは利益は出ません。同じような案件ではありますが、まったく別の物だと判断しました」

課長の顔がぐんにゃりと曲がるのを見た。

「んなことまで、たのんでねぇよ!」

課長はまた芝居がかったように書類を床にたたきつけるが5,6枚だからね。フワフワと舞っただけだ。
遠くでさおりんが白目を剥いた半笑いのアヘ顔変顔をつくって、それをこの緊迫した状況で見てしまい笑いが抑えきれない。咳払いをして誤魔化す。あぶねい。はずいぜチキショウ。

「俺の指示どおりに作ってればいいんだよ! 今日中に作り直せ!」

「はい」

と、振り返った幸村さんは、私の方を向いて変な顔を作った。


目があった私は、わぁ、変な顔しても美人だなぁと思いました。







< 12 / 232 >

この作品をシェア

pagetop