barqueにゆられて



「山城、健也さん、ですね。桜高三年生、卒業見込」
「はい」
「……へえ、バスケ部の部長さんだったんですね」
「どこの大会に出ても一回戦で負けてしまう、弱小チームでしたけど」
 いただきます、とカップを取り上げてコーヒーを一口含んだ彼を、私はじっと見つめていました。
「漢字検定准一級! 凄いですね、私二級までしか持っていませんよ」
「文系は得意なんです。このナリで俳句や詩を作るのが好きって言ったら、みんなにドン引きされてしまうんですけど」
「好きな物を好きと言って、何が悪いんですか? むしろあなたくらいの歳の人が、そうやって文学に興味を持つこと、同じ文学好きにとってはとても嬉しいですよ」
 私は自分の感情を表す術として、言葉や表情、そして仕草を使います。いえ、これは誰でもそうでしょうが、私の場合は遠回りをさせず相手にちゃんと伝わるように、です。その中でも、頭を撫でる、という行為は私のコミュニケーション術の中で、かなりのウェイトを占めていました。
 特に年下に対してはよく出るようです。
 山城さんの頭も撫でていました。
「あ、あの……」
「……あ、ごめんなさい。嫌でしたね」
 まして同性にされては当然かもしれません。私はその辺りまで、咄嗟に考えが回りませんでした。すぐに手を引っ込めて、視線を履歴書へ移しました。
 これといった資格はなし。ほんの少し話した限りには、他人とのコミュニケーションもまあまあ、と言ったところでしょうか。
「家族構成と、今後の進路について聞かせてもらえますか?」
「はい。父と母と三人暮らしです。卒業後は桜下大学の文学部へ行きたいです」
「てっきりスポーツ推薦でその方面の大学を選ぶのかと思いましたけど……」
「身体を動かすことは好きです。でも本当は、本を読んだり文学について勉強したりしているほうが好きなんです。だから、もっと色々研究したくて……」
「………」
 自然と笑みが零れるのを抑えきれませんでした。



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