こわれもの
バイトが始まって30分。
“早く終われ~”
アスカは、いつものようにけだるい気持ちで商品補充をしていた。
“あ、これ、ヒロトさんがいつも買ってくやつだ”
店でも比較的売れ行きのいい乳製品飲料の小パック。
それらを次々冷蔵庫に足していくと、視界の右上から手が伸び、補充したばかりのパックをひとつ持っていかれてしまった。
急ぎの客がよくやる行為である。
「ありがとうございます」
アスカが店員らしく挨拶をすると、
「おつかれ!」
伸びた手の正体は、ヒロトだった。
「ヒロトさん、今の時間仕事なんじゃ?」
ヒロトはひょうひょうと、
「ヒマだったから、ちょっと抜けてきた」
「えっ、いいんですか!?」
「今の時間ヒマだから、一人くらい店員いなくなっても大丈夫」
「テキトーですね……」
ヒロトのいい加減さにあきれつつ、アスカはそんな彼に親近感を感じた。
ヒロトに会うと、ホッとする。
“こんなに気楽に話せるお客さん、他にいないからかな?”
バイトを始めて一ヶ月が経とうとしていた、1月の夜。
アスカがいつも通り接客をこなしていると、制服姿のヒロトがやってきた。
「夜、時間作れる?」
普段の挨拶と同じように、彼はサラリとアスカを誘った。
「飯、行こ?
もちろんおごるし」
「え?」
驚き入るアスカの表情に気づいていないのか、ヒロトは当たり前のように、
「車で迎えに行く。
ちょっと待たせるけど、ペルセウスで待ってろ。
何食べたいか、考えとけよ」
《ペルセウス》とは、このコンビニの向かいにあるカフェの名前。
ペルセウスは夜遅くまでやっているので待ち合わせするには問題ないが、アスカは、一緒に住んでいる祖母への言い訳を考えなければならなかった。
“バイト後、すぐ帰るって言ってあるし……。
帰り遅くなったら、おばあちゃん心配するよね……”