『若恋』若恋編
「あいつの電話番号知ってたのか?」
「うん。」
「………」
無邪気なりおの横顔がショーウインドウに写る。
「あの男、りおを」
呟きは5月の爽やかな風に流された。
「若、」
りおにはわからないように榊が静かに首を横に振る。
わかってる。りおは俺のものじゃない。
誰のものでもない。
俺が幼馴染みとの仲を勘繰ることは許されない。
それでも行き場のないやるせなさに狂いたくなる。
「りお、」
「え?」
振り仰いだりおを掻き抱く。
「……悪かったな。学校、行かせてやれなくて」
学校なんかに行かせたくない。
「もう少し良くなったら学校行かせてやるからな」
あいつのいる学校。もしかしたらあいつだけじゃなくてりおに近づく男がもっといるかもしれない。
行かせたくない。
「できる限りの力で護ってやるからな」