『若恋』若恋編
「奏さん、遅くなってごめんなさいっ」
白い三角巾で腕を吊ったりおが送迎車目指して走ってくる。
「やめ、走るな!」
ドアを開けてりおが走ってくるのを止める。
転んだら骨が折れる。
「委員会で、ごめんなさい。遅くなって」
止めるのも聞かずにりおが結った長い髪を靡かせて駆けてくる。
「走るな」
「でも」
あ。
小石に躓いた体が空中に浮かぶ。
間に合わない!
走ってくる体を受け止められない距離がある。
「そんな慌ててんなっていつも言ってるだろ」
「あ、樹!」
「まったく!目が離せねえよバカ」
「……ごめん」
りおの首を空中で捕まえたのは幼馴染みの樹だった。
転ぶ寸前で後ろから抱き抱えられてる。
「転んだりしたらまた折れるんだろ?気をつけろよ」
首から仔猫を抱えたような体勢のりおを地面に下ろす。
「奏さん、遅くなってごめんなさい。あのね、今日委員会で」
樹が後ろで俺をじっと見ていた。