桜の咲く頃に
「え、そんなー」
 加恋は一気に拍子抜けする。とはいっても、相手の一瞬の隙も逃さない。
「そっちが行き詰ってるんだったらさ、あたしと一緒にやんない? もしあたしがあのサイトの裏ページに辿り着けたら、オフ会に付き合ってくんない? 春休みっていったって、どうせ特に予定もなくて、時間持て余してるんでしょう?」
「考えとく。加恋って、まったく抜け目ないっていうか……」
 一瞬間を置いてから、千佳はぽつりと言う。
「……でも、あのカップルの行方捜し、まだ諦めたわけじゃないんだ」
「え、まだあてがあるの?」
「ちょっと拾ったケータイ貸して」
 千佳は着信履歴を見ている。
「たった一件の受信メールに賭けてみるしかない。だめで元々、電話してみようよ。他に手掛かりもないことだし、これで何も進展がなかったら、もう止めよう。ケータイは駅前交番に届けよう」
 思い詰めたような表情で加恋を見つめている。
「でも、名前もわからない相手に掛けるなんてちょっと緊張しない? メール内容もやばそうだし」
 加恋が心配そうな顔で見守る中、電話番号を打ち込む千佳の指が心なしか震えている。
 4回目の呼び出し音が鳴ったところで、やさしそうな女の声が聞こえてきた。
「あの~、ちょっとお聞きしますが、古宮翔太さんのこと知ってますよねえ?」
「え、今わたしが住んでる部屋の前の住人ですけど……」
「実は、あたしおととい古宮さんのケータイ拾ったんですよ。それで、今そのケータイから掛けてるんだけど、このケータイにメール送ったことありますよねえ?」
「いいえ、ありません。だって会ったこともないんですよ」
 千佳の一瞬見せた驚きの表情を、加恋は見逃さなかった。
「え、でも、このケータイの受信メール履歴に残ってますけど……」
「ええー、そんなあー」
 見知らぬ女の子の声を聞きながら、阿梨沙は夢を見ているような気がしてきた。
「あの~、聞いてますかあ?」
「あ、ごめんなさい」
 ふと我に返る。
「古宮さん行方不明だって知ってますよねえ。それで、あたしと友だちの二人で捜してみようかなって話になって」
「……実は、わたしも古宮さんの行方に興味持ってるんで、こういう話はケータイじゃゆっくりできないから、一度会わない?」
「ぜんぜんそういうタイプの人じゃなかったよ。ちょっと緊張してたから、拍子抜けしちゃった。4月4日の昼に会って話することになった」
 千佳はけらけら笑いながら報告している。
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