HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。妹の笑佳にいたっては、飲もうと思って口に含んだ牛乳を向かい側に座っている父親めがけて勢いよく噴射した。

「ウソだろ?」

「ひろちゃんって、寛人(ひろと)お兄ちゃんのことだよね?」

「他に誰がいますか?」

 母は父におしぼりと間違って台ふきんを渡しながらにこやかに答えた。案外間違いじゃなくて本気で渡しているのかもしれない。この人ならあり得る。

「お母さん、寛兄ちゃんから聞いたの?」

「いいえ。でもわかるの。だって私、母親ですもの」

 ――おい、待て。憶測でそんなことを大々的に発表するな!

 でもこの母の言うことは侮れない。俺は顔を引きつらせたまま食事を続けた。

「えー、証拠は? なんで彼女ができたって思ったの?」

「うん。昨夜お夜食持って行ったらひろちゃんがメールしてたの。あら、と思って覗き込んだらなんと、ハートの絵文字がいっぱいでー」

 ――……ありえん! あのクソ真面目で冗談も通じないようなダサ男が!

 俺は焦げたソーセージに箸を突き立てた。炭になった部分がぽろぽろと剥がれ落ちる。

「というわけで、はるちゃん、あなたも頑張って!」

「なんで俺が頑張らなきゃならないんだよ!」

 母は真向かいからニタニタと笑いかけてきた。この人は本当に侮れない。

「だってはるちゃん、いつになく気合入ってるから。……ターゲットロックオン?」

 ――……一体、どういう母親だよ?

 俺は無言で立ち上がった。

「ちゃんと『ごちそうさま』くらい言いなさい」

 あからさまに不機嫌な態度を取る俺のことなど全く意に介せず、母は毅然と言い放った。この人には威圧や脅しは一切通用しない。

「どこがご馳走かわからないけど、ごちそうさま!」

 俺はもう半ばやけくそで言い捨てて家を出た。
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