HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 何とかギリギリで学校に到着したが、駐輪場は既に満車であるのと、玄関から遠いとういう理由で玄関の脇に自転車を停めた。俺と同じ考えの持ち主は案外多く、ざっと見て二十台近く違反駐車していた。これだけ同志がいれば怖いものなしだと安心して、俺は教室へと走った。

「おはよう」

 舞は読んでいた本から目を離し俺を見た。

「おはようございます」

 どうしていつも丁寧語なんだよ、と不満に思うが、挨拶をしてくれるだけマシかと思い直す。舞は基本的にこういうキャラなんだよな、たぶん。

 授業中はまだぎこちないが、それでも昨日に比べれば舞の態度はずいぶん落ち着いたようだ。昨日の事件はいわゆるショック療法になったとも言える。

 よかった。これで安心して悪戯ができるというものだ。……いや、さすがに今日はしないけどね。

 休み時間、教室の後ろのドアからイトコの神崎英理子がつかつかと入ってきた。俺と英理子がイトコだというのは、この学年では割と有名な話だ。なのでクラスメイトも大して気にしていない。

 英理子は俺の隣を見て「あら?」とすぐに声を上げた。

 ――やっぱり気がついたか。

「あなた、高橋さん……よね?」

「は、はい!」

 舞は慌てた様子で本から顔を上げてこちらを見る。その様子が可笑しくて、ついからかいたくなるんだよな。

「英理子、いきなり呼んだら高橋さんびっくりして椅子から落ちちゃうよ」

「なにそれ?」

 英理子は俺に一瞬軽蔑するような視線をよこし、舞にはニコニコしながら舞の姉の話題を振った。だが、舞は英理子が誰だかわかっていないようだ。

「英理子、高橋さんに自己紹介しないと」

 俺は助け舟を出した。二人のやり取りを観察する限り、舞は本当に英理子と俺のことを忘れてしまっているようだ。
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