HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 一瞬、清水くんの目は大きく見開かれた。すぐに彼はお腹を抱えて爆笑し始めた。

 ……あ、あの……。私、今、恐怖体験をしたばかりなんですが……。

 ぽかんとしている私の顔を見て、ようやく「いや、ごめん」と彼は笑いを無理に収めたようだ。

「高橋さんが『人さらい』なんていうから可笑しくて……。でも危ないところだった。怖かったよね?」

 清水くんは心配そうな顔で尋ねてきた。

「えと……声も出なくて……」

 うんうん、と彼は自転車から降りて、押しながら私に歩調を合わせた。

「大声って咄嗟には出ないらしいよ。普段から練習しておくといいみたい……って今は練習しなくていいけど。俺が疑われるから」

「そうなんだ」

 私は少し気持ちが落ち着いてようやく脳みそが回転し始めた。

「あ? ……あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「だから、今練習しなくても!」

 清水くんは慌てて周囲を見渡した。

「ち、違う! 電車が……」

「ああ。もう行っちゃった?」

 もう駅が見える場所に来たが、今から走っても改札を通って電車に乗るまでには5分はかかるだろう。

「……もう間に合わないわ」

 がっくりと肩を落として私はトボトボと歩いた。

「じゃあさ、お昼一緒に食べない?」

「へ?」

 清水くんはニコニコと眩しい笑顔で言った。あまりにも思いがけない提案に私は間抜けな返事をしてしまう。

「駅の近くに美味しい定食屋さんがあるんだけど、どう?」

「定食……」

 彼のイメージと定食はなかなか結びつかなかった。でもお腹が空いてきたのは確かだった。

「どうせ電車しばらくないんでしょ?」

「よくご存知で」

「じゃなきゃ、あんな大声で電車に乗り遅れるのをがっかりしないんじゃ?」

「さすが、学年一番」

 言った後で少し嫌味だったかな、と心配になっておそるおそる隣を見た。
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