HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 それから私たちは一時間ほど真面目に勉強した。

 私が問題を解いて、つまづいたところで清水くんが解説してくれるという方式でやっていたが、彼の説明がわかりやすくてびっくりした。正直、授業を聞いていてもちんぷんかんぷんだったのに、彼の説明を聞くと何故理解できなかったのか不思議なくらいだ。

 つまり清水くんは深く理解しているということなんだろうな……。でなければ他人にわかりやすく説明することはできないだろうから。

 キリのいいところで清水くんが問題集を閉じた。

「お腹空かない?」

 そういえば昼食抜きで勉強していたのだった。それほど空いていなかったが、またお腹が鳴ったら困るので何か食べたほうがいいと思った。

「下に食べるところあるから行こうか」

 私は頷いてまたおとなしく清水くんの後をついて行った。

 階段を降りると気になっていた温室が目の前にあった。真ん中に大きな木が生えていて何かな? と思って目を凝らすと枝に黄色いものが見える。

「あれ、バナナの木らしいよ」

 私の視線に気がついて清水くんが教えてくれた。

「こんなところに?」

「一応、小さい植物園らしい」

 図書館と植物園という組み合わせは想像していなかったので、こんなところがあったのか、と妙に感心してしまった。しかも食事をするところまであるとは……。私の田舎町の図書室とは大違いだ。

 きょろきょろしている私にかまわず、清水くんは食堂と喫茶店の両方を足して二で割ったような店に入った。

 今度は向かい合わせで座る。

 隣同士も落ち着かないが、向かい合わせも目のやり場に困るな、と思いながら意味もなくテーブルを見つめていた。

「人に勉強を教えるなんて、高橋さんで二人目だよ」

 清水くんは両手で顎を支えて言った。

 ――二人目……。

「意外と少ないね」

 と平常心を装って言ってはみたが、私は一人目が誰なのか気になって仕方がなかった。前に付き合っていた人だろうか?
< 80 / 164 >

この作品をシェア

pagetop