出会いから付き合うまで。
 な、そうしぃよ! と、あたしにやや強引に自分のアイディアを押し付けようとしている。あたしもそのアイディアは良いものだと思ったので、いいんですか? と、肯定の意味も込めて確認した。そうしたら、返ってきた答えがあたしには嬉しい答えだった。
「いいって! いいって! 頑張って!」
 あちゃあ。完全に思い込んでいるな、あれは。あたしが草加君に恋してるって。まぁ、当たらずも遠からず、といったところなんだけど。安井さんはいい人なんだけどね。話しやすいし、仕事に対しても真面目だし。でも、ちょっとおせっかいなところがあるんだよね。
 それから一焼堂にはお客さんが来なかった。夜だし、それは当然だと思う。今は九時を回っている。一焼堂は深夜一時まで営業してるけど、流石にこの時間になるとお客さんも来ない。暇だし、そろそろ帰ろうか、という話になって、一緒に帰る人をあみだくじで決めることにした。
 あたしと草加君になった。
 だけど、草加君は来てまだ一時間しか経っていないから、安井さんと一緒に帰ることになった。シフト表を確認したら、面白いくらいに草加君とあたしは重なっていなかった。今日を逃したら草加君とは暫く会えない。何故か、絶対に訊かないといけない、という焦りが浮き出ていた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
 ヤバイ。安井さんが帰ろうとしている。安井さんが帰ってしまったら、訊くきっかけがなくなってしまう。
「や、安井さん!」
「何?」
「良かったらアド教えてください」
「いいよ。あ、この際だから、知らない人みんな交換しようよ」
 安井さんのフォローにあたしは密かにガッツポーズをつくった。
 ポケットから携帯を取り出す。
「あれ? 充電、切れそうだよ」
 宮下君が親切心から言ってくれた。その時のあたしの待ち受けは、電池がラスト一個の絵に、「愛が不足しています。充電してください」という文字が上下に挟み込んでいる画面になっていた。
「あはは。よく見て」
 宮下君に見せたら括目した後、爆笑。解ってくれたらしい。草加君も横から見て爆笑していた。そう。あたしの待ち受け画面はネタ用の画像になっていたのだ。
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