鈴姫


鈴王は香蘭たちの前までやってくると、さっと馬から飛び降りた。

馬はそのまま、どこかへ走り去ってしまったが、鈴王は気にすることもなく香蘭に近づいてくる。


「お父様」


久しぶりに合間見る父王に香蘭はたじろいだ。


戦場の鈴王は、いつも以上にピリッとした空気を纏っていて、眼光は意志の強さを主張するかのように鋭く光っている。


香蘭は何とか自分を奮い立たせ、自ら父王のそばへと寄った。


「お父様、兵を止めてください。この国を落とすのは今ではありません」


鈴王は香蘭をじっと見たまま、視線を逸らさない。

香蘭も負けじと鈴王を見つめるが、鈴王の放つ気に負けそうになる。


鏡の‘流れ’よりも何よりも、この人の気が一番苦手だと感じた。

誰にも屈しないような力強い気。

だからこその王なのだろう。


必死に耐えている香蘭を見ていた鈴王が、やっと口を開いた。


「私にはやり遂げなければならぬことがある……この命にかえても」


それを聞いた香蘭は眉を寄せた。


鈴王が命にかえてもやり遂げなければならないこととは一体何なのだろうか。


兄の方を見たが、珀伶も鈴王の言葉の意味を図りかねているような表情をしていて、心当たりがないようだ。


鈴王は二人の様子にふっと笑い、おもむろに腰の剣を引き抜いた。


剣はあちこちで燃え盛る炎を受けて、ゆらゆらと煌めく。


動けないでいる香蘭たちの方へ剣先を向けて、鈴王は昂然と言い放った。



「それでも止めたいと思うのなら、この首、獲ってみせよ」



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