鈴姫
「どうしても、行ってしまわれるのですか」
見つめる香蘭を、秋蛍は黄緑色の瞳で、見つめ返してきた。
「行かなくてはならないんだ」
香蘭は息を飲み、秋蛍の有無を言わせぬ口調にもう何も言えなくなった。
ハルたちが心配そうに見守る中、ぽろぽろと溢れてくる涙を拭いもせずに、秋蛍を見つめたまま、一歩下がった。
「……せめて、祈りを。あなたを守ってくださいますようにと、短刀に祈りを捧げさせてください」
秋蛍は黙って、ゆっくりと短刀を香蘭に差し出した。
香蘭の手に短刀が渡る。
光続ける小さな短刀は、これまでに感じたことがないほどずっしりと重く感じた。
このまま、短刀を持って逃げてしまえば秋蛍は命を落とさないですむ。
しかしそうすれば、魔物を倒すことができない……
香蘭は短刀に祈りを捧げ、そっと、秋蛍に返した。
秋蛍は相変わらず黙ったまま、短刀を受け取った。
短刀が秋蛍の手に完全に渡ってしまうと、香蘭は秋蛍を見上げ、無理矢理、微笑んだ。
「どうか―――」
口を開いたものの、次の言葉が継げずに香蘭は震えた。
とても怖い。
彼が行ってしまうことが。
いなくなってしまうことが。
もう会えなくなること、が。