鈴姫


蔵から出された伯玲は、鈴王の待つ部屋に通された。

王のもとへ向かっている間、香蘭の姿を探したが見あたらず、兵士に聞いても口を閉ざすばかり。


庭で話している侍女たちも、伯玲を見つけるとそそくさと逃げていった。


嫌な予感を胸に抱きながら王の間に足を踏み入れると、文机の前に座っていた鈴王の鋭い目が伯玲を捉えた。


「来たか、伯玲」


「……父上」


鈴王は顎で伯玲に座るように促し、伯玲は指示に従って父の前に腰を下ろした。

伯玲が大人しく座るのを眺めていた鈴王は、手にしていた筆を文机に置いた。


「閉じ込めてすまなかったな。何としてでも成功させたくてね。鈴国のためだ、許せ」


「成功……、まさか、父上」


伯玲は息を飲み、震える声で言葉を続けた。


「香蘭を……?」


「……悪く思うな。これも国のためだ。この縁談は断れるものではなかった」


「縁談、などと。そんな簡単な言葉で済まされるものではないでしょう。あの子は……どういう扱いを受けることか」


「………」


「父上!」

< 54 / 277 >

この作品をシェア

pagetop