鈴姫
蔵から出された伯玲は、鈴王の待つ部屋に通された。
王のもとへ向かっている間、香蘭の姿を探したが見あたらず、兵士に聞いても口を閉ざすばかり。
庭で話している侍女たちも、伯玲を見つけるとそそくさと逃げていった。
嫌な予感を胸に抱きながら王の間に足を踏み入れると、文机の前に座っていた鈴王の鋭い目が伯玲を捉えた。
「来たか、伯玲」
「……父上」
鈴王は顎で伯玲に座るように促し、伯玲は指示に従って父の前に腰を下ろした。
伯玲が大人しく座るのを眺めていた鈴王は、手にしていた筆を文机に置いた。
「閉じ込めてすまなかったな。何としてでも成功させたくてね。鈴国のためだ、許せ」
「成功……、まさか、父上」
伯玲は息を飲み、震える声で言葉を続けた。
「香蘭を……?」
「……悪く思うな。これも国のためだ。この縁談は断れるものではなかった」
「縁談、などと。そんな簡単な言葉で済まされるものではないでしょう。あの子は……どういう扱いを受けることか」
「………」
「父上!」