ダイダロスの翼
銃を握る瑞緒の腕を、レイノルドは掴んで放さない。

銃口が、地面を向いたまま小さく揺れた。


「……邪魔しないで」


レイノルドの腕の中で、少女がもがいている。

違反をなくそうと、慣性で歯車は回る。

だからレイノルドは放すわけにはいかなかった。


「お前に撃たせるわけにはいかないんだ。

住民と……何よりもお前のために」


放った銃弾は、いつか自身へ返ってくる。


「だから撃たないでくれ、頼む」

「お願いだから、放して」


闇の中から絞り出された声は、弱々しく震えていた。

腕の中の少女の体が、ひどく熱い。


泣いているのかもしれない、そう思いかけたレイノルドを激しい頭痛が襲った。


息もできないほどの痛み。


思わず膝をついたレイノルドの頭上で、なにやらひどくのんきな声がした。


「……お前ら、そこで何をやってんだ」


レイノルドがかすむ目を上げると、先程の若い男の隣に、白髪頭の男が立っている。

新手か、と混濁するレイノルドの意識が認識すると、少女が腕を払いのける気配がした。


「銃……を、置きなさい」


肩で息をしながら、瑞緒は男達へ銃を向ける。

なんとなく、レイノルドは思う。

おそらくこの頭痛は瑞緒のものだ。
レイノルドの頭痛は、脳が共鳴しているのに違いない。


頭痛にあらがう瑞緒を、白髪の男は目を細めて眺めていた。


「渥美、どういうことだ。
説明してくんなきゃ分からねえ」

「……峰岡さん。

女はたぶん監視者です。

外人の方はよく分かりませんが」


峰岡と呼ばれた白髪の男は、何かを見極めようとでもするように、いっそう目を細めた。


「嬢ちゃん。

さっきの銃声はあんたか。

いきなり撃っちゃ危ねえだろう」


「いきなりではないわ。

住民の銃所持は違法だと、あなたも彼も知っていたでしょう。

だったら、取り上げられても文句は言わせないわ」


少しずつ、頭痛が和らいでいく。

自分の正義を信じていれば、痛みなど感じない。


やがて、峰岡は自分の持っていた銃を取り出すと、ゆっくりと腰をかがめて地面へ置いた。


「……峰岡さん!」

「いいんだ、渥美。
こういう奴ぁ、言っても聞かねえ」



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