ダイダロスの翼
レイノルドはまじまじとトールを見つめる。

トールは初めから気付いていたのだ。

自分の正義による犠牲を。

それでもあえて正義を選んだ。


「……」


自分は、何を知っていただろう。

この夜に、フェンスの向こうで、何を知っただろう。


握り締めたこぶしをゆるめる。

手のひらに、強靱で、かつ驚くほど脆い腕の感触がよみがえった。


その腕を必死につかんで、流れようとする血を止めに入った、確かな記憶。


『形式的なものだが、手術の同意書だ。

俺は全てを守りたい。

守る力を得るためなら何だってしよう』


自分はただ、守りたかった。

それだけは、確かである。


今は、方法が分からないだけ。



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