ダイダロスの翼
天幕の中。


朝食のオートミールの箱をつかんでいたトールは、レイノルドを見るなり疲れたような目をして、深々とため息をついた。


「……だからフェンスを越えるなと言ったんだ。

会って何が分かる?

余計な邪念が混ざるだけだ」


トールは伏し目がちにそうつぶやいた。

レイノルドは立ったまま、いつだって正しいトールの言葉を反芻する。


「余計な、……邪念」


「そうだ。

反乱がすぐには起きないことも、武器が犯罪に使われる可能性があることも、最初から分かり切っていたことだろう。

少なくとも、俺は最初から分かっていたよ。


お前は知らなかったのか、レイノルド?

考えが及ばなかったか」


考えたこともなかった。

トールの言う通りにすれば、全てが上手くいく……そんな夢のような思いを抱いていたのだ。


トールはうつむいたまま、ふんと鼻を鳴らしてなおも続ける。


「単純バカなら単純バカなりに、迷わず突き進んでいればよかったものを。

なぜフェンスを越えた。

なぜ迷った。

迷いは邪魔だ。

歩みが鈍るだろう」



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