しあわせおばけ
妻は、あの日、相沢が和室の戸を開けた瞬間に消えた理由を、
「相沢くんはもとより、明日香に会う心の準備ができてなくて。中途半端に会うほうがかえって酷なんじゃないかって思ったし」
と説明した。
「それで慌てて天国に戻ったはいいけど、今度はそっちの仕事が忙しくなって来られなくなっちゃったの」
「仕事って、天使の?」
妻は羽を気持ち良さそうに広げ、うん、と頷いた。
「でも落ち着いたから来ちゃった。また会えたね」
やさしく俺を見つめる瞳に、俺はとろけそうになった。
「俺、あれからずっと待ってたんだよ」
そう言うと、妻はますます目を細めて俺を見た。
「うん。いつも和室を見てくれてたの、天国から見てたよ。私も早く会いたかった」
なんだか恋人だった頃に戻ったような照れくささが、俺と妻の間に満ちた。