あの場面はどこに
 水をかけてしまった男性に謝罪し、スーツを濡らしてしまったのでクリーニング代を払うと言ったけど、男性にそれはもういいが、痴話ゲンカなら場所をわきまえなさいと言われてしまった。

 男性は頭のことを気にしてしまったようで、騒動の後すぐにレストランを出て行ってしまった。

 私はひたすら店員さんや周囲のお客さんに謝り、まさゆきと店を出た。

「大恥かいたよ」

「ごめん」

 さすがの私も素直に謝った。

「嫌がらせのことだけど、本当に君じゃないんだな」

「嫌がらせなんかしてないわよ」

「わかった。呼び出して悪かったな」

「私もこんなことになって、ごめん」

「それじゃあ」

「じゃあ」

 私とまさゆきは別れた。一年前の別れのときと同じ気まずい別れになった。

 私はまだ目がクラクラすることに気が付いた。

「まだメガネしてたの」

 独り言のあと、メガネをはずした。

「もう、あのレストランには行けないなぁ。彼にどう言って断ろう」

 彼、あそこのパスタ好きなんだよなぁ。あーあ、どうし……。

 ん?んん?

 大事なことを思い出した。

 彼がいるかもしれないんじゃなかった?


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