あの場面はどこに
 アパートが見えてくると、ここまで頑張ってきた私の足がひるみ、止まってしまった。

 部屋の窓を見たって、彼が帰ってきているかはわからない。夜だったら電気がついているかどうかでわかるんだけどなと思いながら、私は目を凝らした。

 駄目だ。どんなに見たってわからない。

 勇気を出して、階段を上がることにした。彼が居たら居たで、本当のことを言うしかない。

 ドアの鍵を開け、深呼吸をしてドアを開けた。テレビの音が聞こえるかと耳を澄ますが、何も聞こえない。

 そんなことより靴があるかどうか見ればいいんだということに気付き、玄関を見ると彼の靴はまだなかった。

「良かった」

 急いでメガネを元の場所に戻し、ワンピースもさっさと脱いで、タンスの奥にしまいこんだ。

 朝と同じ服に着替えて、ソファーに座ると自分が情けなくなってきた。こんなオドオドしてないで、すべてを彼に話せばいいじゃないか。やましい事なんて何一つないんだし。


< 13 / 26 >

この作品をシェア

pagetop