あの場面はどこに
「印象が変わったな」

「そう?」

「ワンピースなんか着てるし」

 いつもジーンズにTシャツなどといったラフな格好しかしない私のワンピース姿に、まさゆきは心底驚いている様子だ。

 こんな日に着たくなかった。このワンピースはクリスマスのために、そして何より、彼のために買ったワンピースなのに。

 ある日、小説を書いている手を止めて、彼が話しかけてきた。

「今はどんな服が流行っているの?」

「どうしたの、急に」

「今、恋愛ものを書いているから女性のこと勉強しなくちゃさ。君はいつもジーンズだからな」

「スカートはいたら驚くくせに」

「そうかもしれないけど、初めだけだよ。きっと、似合うよ、君にも」

 彼にワンピース姿を見せて驚かせようと思って買ったのに。何でこんな日に着ることになったのか。でも、変装するにはこれしかなかったんだもん。

「何だか悪いことしたな」

 まさゆきが申し訳なさそうに言った。

「何が?」

「期待させたみたいだな」

「は?」

 まさゆきが私の全体を見た。

「ワンピース着て、綺麗な格好してきたんだろ。俺のために」

「はっ?」

「そういうつもりじゃないから困るんだよね」

 なんだか私の目の前がクラクラする。それは、メガネのせいだけじゃないらしい。
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