あの場面はどこに
 ○×レストランの扉を開ける。ドキドキしながら店内を見回すが、彼らしき人は見当たらない。

 家を出る前に彼の携帯に電話をかけて居場所を確認しようと思ったけど、彼はいつものごとく携帯に気付かなかったのか、電話に出なかった。

「お一人様ですか?」

 笑顔の店員が傍に寄ってきた。

「いえ、連れが……」

 そのとき、喫煙席に座るまさゆきを発見した。

「ごゆっくりどうぞ」

 店員の笑顔が私の格好を見て笑っているんじゃないかと、恥ずかしくなった。

 早歩きでまさゆきがいるテーブルに近付き、ドスンと椅子に腰掛けた。まさゆきが驚いた顔で私を見てる。その後、顔から足元まで見て、顔に視線を戻した。

「メガネかけたんだ」

「ま、まぁね。視力が落ちたのよ」

 これは、嘘だ。本当は目なんか悪くない。部屋にあった彼の予備のメガネをかけてきたのだ。

 自分に必要のない度付きのメガネのせいで、目の前が少しクラクラしている。
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