午前0時、夜空の下で
結婚後ならともかく、結婚前は男に権力があると聞いたばかりだ。

……逆らうことなど、できないのだと。

「アンタの男は、結婚する前からアンタにすべてを許してんのよ。……どんな甘い言葉よりも、愛が詰まってるじゃない」

ぽろぽろと、心の頬を涙が滑り落ちていく。

アシャンはそっと震える頭を撫で、静かにその場を離れた。

いつの間にか、空はとっぷりと暗くなっている。

「……ぁいたいっ……!!」

想いのすべてを絞りだすかのように、言葉を紡ぐ。

「……かえり、たいっ……!!」

擦れた声で、何度も何度も。

「……づき、さまっ……」

微かな微かなその囁きは、誰の耳に入ることもなく、闇へと消えていった。






< 132 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop