午前0時、夜空の下で
クスリと、少女は嗤う。

「琅へ行く」

透き通る声でそれだけ言うと、ついと視線を移した。

その先にあるのは王の城。

あそこに住まうこの世の支配者は、一体何を企んでいるのか。

冷たい夜風が、漆黒の髪を靡かせる。

「もしや我ら一族の悲願が叶う時が、近づいているのかもしれぬ」

祈るかのように目を伏せた少女は、やがて真直ぐに前を見据え、次の瞬間にはその姿を消していた。



「ホント、無茶にも程があるっつーのよ」

そうぼやいたのは、潮風に髪を揺らすノーラ。

彼女がそう言うのも無理はない。

心から伯爵の突然の帰国を聞いたミスティアは、寝ていた旦那を叩き起こして有給休暇をもぎ取ると、無理矢理ノーラについてきてしまったのだ。

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