午前0時、夜空の下で
「……私は一時期、ヴェルディ様の教育係を務めておりました」

クウェンの突然の言葉に、心は目を伏せる。

幼いヴェルディ皇女は、ベッドの中で聴くクウェンの幅広い知識による講義が何よりの楽しみだったと、レインが漏らしていた。

「どこで、間違ってしまったのか……」

ヴェルディ自身が幸せでも、他者から見れば批判を免れることはできない。

「では、始めましょう」

すべてを振り切るかのように目を閉じたクウェンは、次の瞬間にはまた感情の読めない瞳で、心を転移装置の置かれている一室へと促した。





転移装置がある部屋は琅国皇帝の部屋近くに位置する。

緊急時には皇帝が真っ先に避難するためであろう。

謁見の際に目にした琅国皇帝は未だ雄々しく、鋭い瞳で心を見据えた。

秀麗というよりも厳つい顔立ちで、あまりレインには似ていなかった。

己の娘として黎に嫁ぐことになった少女を、果たして皇帝はどう思ったのだろう。

威圧することも試すこともなく、ただ一言、己の務めを果たせとのたまった。

会ったのはそれきりだ。

多くの側妃を持ち、貴族と渡り合ってきたかの皇帝は、影では古狸と揶揄されるほどの実力者である。

「こちらが転移装置です」

思考に耽っていた心の耳に、クウェンの声が飛び込んできた。

目を向ければ、ガラスの板のようなものに気づく。

物珍しくて覗き込めば、ガラス板の表面に何か模様が刻まれていた。

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