君がいた夏

「ないよな」
「恋愛って感じはしないなぁ」

なんて話をして笑ってた

本当に
紀衣に恋愛感情なんて
なかったし、向こうにもないと確信していた。

そんな確信は呆気なく崩れることになった。

夏休みに入る1ヶ月前の6月下旬

雨の降る放課後だった。

「・・・・最悪」

俺は昇降口から空を見上げて呟いた

委員会が部活も終わる時刻まで伸びて、1人で帰ろうとしたら
雨が降っていた。

「傘持ってねーし・・・・走るか?・・・でも、試合近いしなぁ」

1人でぶつぶつと悩んでいたら
俺の視界に小さな手と青色の傘が入ってきた

隣を見ると
1人の女の子が立っていた

「・・・・あの、これ使ってください。試合近いなら、濡れない方がいいですし」
「・・・でも、君は?」
「私は、家近いし・・・試合とかもないので」
「いや、でも」
「使ってください」

そう真っ直ぐ俺の目を見て笑った綺麗な純粋な笑顔が
俺の心を掴んだ瞬間だったと思う

彼女は会釈をすると
雨のなか走っていった

「・・・・・ん?」

その後ろ姿を見送り
手にした傘に目をやると

名前が書いてあった

2―B
高嶋菜穂

「たかしま、なほ・・・・」


俺は傘をさしながら
少し早くなる胸の鼓動を雨のなかに隠してた

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