威鶴の瞳


両親は、私を家に置いたまま、突然消えた。



最初は何も気付いていなかった。

両親はいつも帰って来ていなかったし、ただ偶然両親の部屋の隙間から見えた景色が、『空っぽ』だった。

私ごと、家を捨てて、消えた。



姉は社会人になっていたし、お金に困ることはない。

その上一人暮らしだ。



しかし私には、何もなかった。



姉の連絡先も知らず、両親も消え、高校にも友達はいない。

頼れるものは何一つない。

お金すら、今月の食費の、ほんの数万円しかなかった。



こんなんじゃ、いつか底を尽きる。

バイトをするにしても、学費までは稼げない。

なにより、すぐにバイト先が見つかるとも限らない。



──それなら、未来を考えるならいっそ、退学してしまおう。

迷いはなかった。

止める人も、誰もいなかった。
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