威鶴の瞳
トーマを拾った、あの冬のを思い出す。
心ここにあらず。
視点が定まらず、まるで人形のように、道路脇に座っていた。
「また、家で暴れるかもしれねぇ。メチャクチャにして、今度は病院送りに……」
「お前はそこまで弱くない」
「……」
「以前の弱いお前は、もういない」
暴れるトーマ。
抑える姉。
あれ以来、異常なほど嫌悪するようになった妹。
怯える母親、すまし顔の父親。
その日、一家はバラバラになった。
トーマが壊した。
俺は、逃げ道を与えただけだ。
こういう崩壊には、時間がかかる。
──時間をかければ、なんとかなるものなんだ。
トーマの過去。
それは、拾ってすぐに脳に叩き込まれるように入ってきた、映像。
最も見せたくないだろうものに触れてしまった、償い。