教組の花嫁
 
 「私はここで何をしているのだろうか」

 小波の内に、不意にこんな疑問が生じた。


 「私がこの教団に潜入したのは、母親の恨みを果たす為ではなかったのか」
 「それが、教祖の愛人になり、妻になり、ついには教祖となって、教団を存続させる為に必死になって努力している」



 「全く正反対の歩みをしているのではないか」
 「何と利己的で、偽善的な歩みではないか」



 「これでいいのだ。自分の前に広がる道を、したたかに歩むことこそ、自分の歩む道なのだ」




 小波は、心に湧き上がる疑問を自らの意思で打ち消した。
 思うように生きられないのが人生。



 教祖という立場を受け入れ、小波は自分の為に、永心の為に、前に向って歩む覚悟を固めた。
 もう、迷いは無かった。
 小波は、演壇に向って力強く歩き始めた。その顔は、凛々しい教祖の顔であった。




 小波が講演を始めた。


 初めてのせいか、小波は何度もどもり、舌が思うように回らない。
 頭の中が、空白になっている。


 聴衆の反応はすこぶる良くない。
 何と、立ち上がり帰る客まで出て来た。




 (どうしよう・・・。もう限界だ)




 
 小波は、動揺しうろたえた。


 身体が、小刻みに震える。


 震えは止まらない。




 (これ以上、語れない・・・)


 (仕方がない。投げ出すか)




 (これで何もかも終わりだ)



 小波は、大息を付いて観念をした。

 




 「へたくそ!」






 その時、罵声と共に、会場から靴が投げ付けられた。
 その靴は、赤いハイヒールだった。
 靴を投げ付けた聴衆を見ると、それは酒に酔い潰れた嶋中ほのかだった。



 小波が、ほのかを睨み付けた。



 「馬鹿野郎!」



 小波が怒りを吐き出した。


 ほのかは小波を焦点の定まらない目で見て、何かを喚いている。




 「畜生!」




 小波は、ほのかを目掛けて赤い靴を投げ返した。
 赤いハイヒールは、くるくる くるくると宙を舞いながら落ちて行った。








              (了)


*この物語はフィクションです。





< 296 / 296 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:10

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

マザー症候群

総文字数/98,453

その他291ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
息子を持つ母親なら 誰もがかかる あの症状 それがマザー症候群 これにかかると あなたの心と体は いとも簡単に壊れてしまう 感染には くれぐれもご注意を
114歳の美女

総文字数/101,629

歴史・時代321ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
高齢者生存調査で 出会ったのは 114歳の絶世の美女 どう見ても 20代の後半に見える!? そんな馬鹿な!!! 古都 京都を舞台に 上質のミステリーが 妖艶に呼吸する レビューお礼申し上げます。 糸利青様 大野ソイ様 名古屋ゆりあ様 叶遥斗様 2012.10.30 Berry,s Cafe 今週のオススメに選ばれました! 歴史・時代部門 1位獲得(~2012.11.12.現在) ベリカ限定 (全10話) 2012.5. 27.start
すっぴん★

総文字数/87,891

ミステリー・サスペンス273ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
運命の合コン 何とその日 彼女はすっぴんで現れた 何故? 解けそうで解けない 超難解 ラブミステリー 大人女子に極上の恋と推理を ミステリー部門2位獲得 2014.1.18現在 Berry,s cafe限定 2013 10 10

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop